建設業の事業承継事例
Ⅰ.後継者誕生
都内で創業以来35年間、地域密着の工務店として活動して来られました。ご子息を後継候補にした時期もありましたが結局上手くいかず退職、
その後の数年間も後継者について考えてきましたが未だ決まらない状況でした。そんな中、自分の体のこともあって早めに経営承継しないと
お得意様にご迷惑をおかけするのではという思いから、若手で技術ある幹部社員に絞り後継を託すということを決めました。
事業を託すにあたり弊社に相談が入り承継業務につき支援要請がありました。
幹部社員へは経営者から事前に話しをして、とても前向きに検討していただいている様子であったので、
あとは細かな調整作業をするばかりと安心していましたが、
ある日ご家族の反対にあったとの事で正式に断りの連絡をいただきました。経営者となれば借入金の連帯保証、経営責任などが重くのしかかり
大変なことになるといったことでした。残念ですが仕方ありません、他の後継者を探すかたわら事業譲渡も視野に入れ進めることにしました。
そんな時、とても感じの良い若き職人さんがいることに気付いたのです。後継候補であった幹部社員と現場で一緒に働いている職人Aさん、
お会いしてみるとリーダーシップのある気さくでとても明るい感じの方でした。この人なら後継候補としては最適でないかと直感しました、
リーダーとは他人のために苦労を厭わない責任感の強い人それを感じたのです。
経営者からまず話していただいたところ当初は恐れ多いとのことで受け入れてもらえませんでしたが、
少しずつですが気持ちがほぐれはじめ次第に本音を聞けるまでになり経営承継をする決意が固まっていったのです。
職人さんですから言わば技術者、
経営能力があるとは限りませんが多少びびりでも責任感が人一倍あったということが一番のポイントであったと思います。
Ⅱ.次なる課題
経営承継は決まりましたが残るは資産承継です。
創業より35年間地場を中心に経営基盤を固め堅実経営で無借金経営となっていました。
創業家から店舗及び創業者自宅兼資材倉庫の2棟を後継者に購入してもらえないかという話しが出て来ました。
当初は当面賃貸で構わないとのことでしたが、創業家はここから別の場所へ転居することでAさんが気兼ねせずこの地に根を張りやって
行けるのではと思ったようです。不動産を購入するためには融資やその返済について十分検討しなければなりません。
金融機関から融資をしていただけるとの内諾は即得られましたが、Aさんは住宅購入でローンを組んだばかりご本人には
かなりの負担を感じさせたのも無理はないと思いました。
乗り越えられない課題はないと日頃より言ってはいるもののこの時には大変思い悩んだようです。
ここで事業承継がとまることのないよう創業者へ不動産賃貸を促し適性賃貸料を出してみようということになりました。
結果、賃貸料が購入した場合のローン返済額を上回るというがわかりAさんとしては購入を前向きに検討せざるを得ない状況になりました。
これから場所を変え店舗運営することは得策でないと感じていたようで次第に購入の方向へ気持ちも固まっていったようです。
Aさんのお身内には出来る限り相談していたようですが反対意見は殆どなかったようです。
Ⅲ.事業承継に一番大事なもの
今回承継のタスキをつなぐため一番大事にしたことは何か、それは創業者の想いと後継者の感じ方です。
創業者の想いは言わば哲学、後継者がその哲学を感じとれなければ経営は務まらないでしょう。
なぜなら会社はその経営者の想いで運営されてきたからです。お客様もその経営者のファンでいたのに間違いありません。
Aさんにはこれからこの想いを受継いでいくこと、そして「第二の創業」という新たなテーマがある訳です。
5年先、10年先の売上を上げさせていくには今までにない何かを第二の創業で事業として作っていかねばなりません。
相田みつをさんの作品に“命のバトン”というのがあります、自分の両親は2人、そのまた両親が4人と10代前だと1,024人、
20代前となると百万人を超えるというものです。人間はそれぞれバトンを受け継いで生きている、
そしてそのバトンを自ら一生懸命継いでいくということなのですね。
自分がその役目になったと自覚し感じとった時そのバトンが継がれていくことを目の当たりし、事業承継に一番大事なものだと理解しました。